要約
デジタル庁がマイナンバー民間活用を拡充する中、行政書士法の独占業務・無資格代行リスクと企業が取るべきコンプライアンス対策を解説します。
マイナンバーカード民間活用の拡大で何が変わるか
デジタル庁は2026年6月、マイナンバーカード・インフォ(民間事業者向け情報)Vol.140・141を更新し、民間事業者によるマイナンバーカードの活用推進に向けた情報提供を強化しました。マイナポータルの機能拡充や行政データの機械可読性向上も並行して進んでおり、行政手続のデジタル化は着実に加速しています。
こうした動きは企業のDX推進や手続効率化という観点では歓迎される一方、「デジタル化されたなら、IT担当者やコンサルタントが代わりに手続きしてもいいのでは?」という誤解を生みやすい点に注意が必要です。行政手続がオンライン化・デジタル化されても、行政書士法が定める独占業務の範囲は変わりません。無資格代行に対する罰則リスクは依然として存在し、むしろデジタル手続の普及によってグレーゾーンに踏み込みやすい環境になっているといえます。
行政書士法における独占業務と無資格代行が違法になる条件
行政書士法(昭和26年法律第4号)第1条の2は、行政書士の業務として「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」を定めています。さらに同法第19条は、行政書士でない者がこれらの業務を「業として行うこと」を禁止しており、違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金(同法第21条)が科されます。
重要なのは「業として」という要件です。反復継続して報酬を得る目的で行えば「業として」に該当します。たとえば、ITコンサルティング会社がクライアントの許認可申請書類をオンラインシステム上で作成・代理提出し、その対価を得ていれば、行政書士資格なしに独占業務を行っていることになり、違法と判断されるリスクがあります。
また、行政書士法第21条の2には両罰規定が設けられており、違反行為を行った担当者だけでなく、その行為者が所属する法人も処罰の対象となります。企業として無資格代行サービスを黙認・放置していた場合でも、会社自体に罰金刑が科される可能性があることを、法務・コンプライアンス担当者は認識しておく必要があります。
デジタル化で境界線が曖昧になりやすい業務類型
デジタル庁が推進するオンライン化・データ連携の拡大により、特に以下の業務で無資格代行のリスクが高まっています。
①許認可申請のオンライン代行
建設業許可・古物商許可・宅建業免許など、もともと紙ベースで行われていた許認可申請が電子申請に移行しつつあります。「書類作成の代わりにフォーム入力を手伝う」という認識でも、官公署への提出を代わりに行い報酬を受け取れば、行政書士法違反になります。
②マイナポータルを活用した在留資格・帰化申請サポート
在留資格の電子申請が拡充される中、移民支援コンサルや人材紹介会社が申請手続を代行するケースが増えています。在留資格申請は出入国管理及び難民認定法に基づく手続であり、申請取次行政書士の資格なしに報酬を得て代行することは原則として違法です。
③行政データ活用ツールを使った申請書類の自動生成
行政データの機械可読性向上に伴い、APIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して申請書類を自動生成・提出するサービスも登場しています。ツール自体の提供はグレーゾーンとされることもありますが、そのツールを使って具体的な申請書類を作成・提出する行為を受託し報酬を得れば、独占業務への抵触が問題となります。
④マイナンバーカード情報を使った本人確認代行
マイナンバーカード・インフォVol.140・141では民間事業者向けの活用方法が示されています。マイナンバーカードの本人確認機能を活用した行政手続サポートサービスを提供する際、書類作成・提出の代行が含まれていないかを慎重に確認する必要があります。
企業が取るべきコンプライアンス対策のポイント
デジタル化の波に乗って行政手続代行サービスを展開・拡張する際、企業の法務担当者は以下のチェックポイントを押さえてください。
①「情報提供・アドバイス」と「書類作成・提出代行」を明確に分離する
申請に必要な情報を整理してクライアントに渡す、記載方法をアドバイスするといった行為は一般的に問題ありません。しかし、その書類を実際に作成・完成させてクライアントの代わりに提出する行為は独占業務に当たります。契約書・業務フロー・実態の三点が整合していることを確認してください。
②業務委託先・提携先の資格確認を徹底する
許認可申請の実務を外部に委託する場合は、委託先が行政書士資格を有しているか、または有資格者の監督下で業務が行われているかを必ず確認します。無資格の外注先に独占業務を行わせた場合、発注側の企業も両罰規定により罰則を受けるリスクがあります。
③デジタル化に伴うサービス範囲の見直しを定期的に行う
オンライン申請の対象業務が拡大するたびに、自社サービスの内容が行政書士法の規制範囲に抵触しないか再点検してください。特に新しいデジタル行政サービスが登場した際は、行政書士法に詳しい弁護士・行政書士への相談を検討することが望ましいです。
行政手続のデジタル化は便利さをもたらす一方で、「デジタルだから規制が緩い」という誤解を生みやすい環境でもあります。行政書士法の独占業務の枠組みはアナログ時代から変わっておらず、無資格代行に対するコンプライアンスリスクへの対応は、企業にとって引き続き重要な経営課題です。
よくある質問
- Q.行政手続がオンライン化されれば、無資格でも申請代行できるようになるのか?
- A.なりません。行政書士法の独占業務規制は手続の形式(紙・オンライン)に関わらず適用されます。報酬を得て代行すれば無資格代行として違法になります。
- Q.マイナポータルを使った申請サポートは行政書士資格なしで行えるか?
- A.申請内容のアドバイス・情報提供は一般的に問題ありませんが、書類の作成・完成・提出を代わりに行い報酬を得る場合は行政書士法違反のリスクがあります。
- Q.外注先が無資格で申請代行をしていた場合、発注企業も罰則を受けるか?
- A.行政書士法の両罰規定により、違反行為者が所属・提携する法人も罰則対象となる可能性があります。委託先の資格確認は必須です。