要約
デジタル庁のJPKI更新を機に、オンライン申請代行でも行政書士法の無資格代行規制が適用されることを解説。両罰規定のリスクと企業が取るべきコンプライアンス対応を整理します。
公的個人認証サービス(JPKI)の最新動向と行政書士法の接点
2026年6月、デジタル庁は公的個人認証サービス(JPKI)における「最新の利用者情報(4情報)提供サービス」に関する資料を更新しました。JPKIは、マイナンバーカードの電子証明書を活用して本人確認を行う基盤であり、各種行政手続のオンライン申請において中核的な役割を担っています。この更新によって、許認可申請や在留資格申請、各種届出など、官公署に対するオンライン手続がさらに拡充される方向にあります。
こうした行政手続のデジタル化が進むほど、「オンライン申請なら誰でも代行できる」という誤解が広がりやすくなります。しかし、行政書士法の規制は手続の方法(紙かオンラインか)には依存しません。報酬を得て他人のために官公署提出書類を作成・提出代行する行為は、オンライン経由であっても行政書士の独占業務に該当し、無資格でこれを行えば同法違反となります。企業の法務・コンプライアンス担当者、補助金コンサル、許認可代行サービスを提供する事業者は、JPKIの利便性向上に伴うリスクの変化を正確に把握しておく必要があります。
行政書士法の独占業務:無資格代行が違法になる具体的な条件
行政書士法第1条の2は、行政書士の独占業務として「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」を定めています。同法第19条はこれを非行政書士が業として行うことを禁止しており、違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金(第21条)が科されます。
さらに見落とされがちなのが両罰規定(第22条の2)です。違反行為を行った従業員だけでなく、その使用者である法人にも罰金刑が科される可能性があります。つまり、コンサルティング会社が無資格スタッフに許認可申請書類の作成・代行を担わせていた場合、会社組織ごと処罰対象になり得ます。
無資格代行が違法となる主な条件を整理すると以下のとおりです。
- 「他人のために」行う:自社の申請ではなく、クライアントの申請を代わりに処理する場合
- 「報酬を得て」行う:コンサルフィー、成功報酬、業務委託料など名目を問わず対価を受け取る場合
- 「官公署提出書類の作成・提出」を行う:申請書の記載、添付書類の整備、電子申請の送信操作などが含まれる
JPKIを活用したオンライン申請の場合、クライアントのマイナンバーカードを預かって電子署名を付与する行為や、クライアントのアカウントでマイナポータルから申請を送信する行為も、実質的な「提出代行」として違法と判断されるリスクがあります。
デジタル化で「グレーゾーン」が拡大する許認可申請の代行業務
JPKIの利用者情報提供サービスが拡充されると、行政機関間の情報連携がスムーズになり、申請者が改めて書類を用意する手間が減ります。この「簡便化」が、「代行しやすい=誰でもできる」という誤解を生む温床になります。実務上、特に注意が必要なグレーゾーンは次のとおりです。
①コンサルタントが「書類チェック」名目で実質的に申請書を作成するケース
クライアントが形式上は自分で入力するとしても、コンサルが記載内容を全て指示・修正した上でクライアントに確認させるだけの場合、実態は書類作成の代行と評価されることがあります。
②業務委託契約で「申請サポート」として代行を請け負うケース
「申請サポート」や「申請アドバイザリー」といった名称でも、業務の実態が許認可申請書類の作成・提出代行であれば、名称にかかわらず行政書士法の規制を受けます。
③クラウドツールを活用した自動申請サービスのケース
テクノロジーを活用してクライアントの申請データを収集・整形し、自動的に電子申請まで行うSaaSモデルも、「他人のために報酬を得て官公署提出書類を作成・送信する」構造であれば違法となります。デジタル化は手段にすぎず、行政書士法の適用対象かどうかの判断基準は変わりません。
一方、合法的に代行できる範囲としては、補助金申請の事業計画書作成(補助金事務局への提出に限られ、官公署への許認可申請書類でない場合)、申請に必要な情報収集・ヒアリング支援、書類提出後の進捗確認などが挙げられます。ただし補助金についても、申請書類の作成が官公署への許認可申請と一体化している場合は要注意です。
企業が今すぐ実施すべきコンプライアンス対応チェックリスト
JPKIの機能拡充を契機に、自社の業務フローを見直す企業は増えています。法務担当者・コンプライアンス担当者が確認すべきポイントを以下に示します。
【即時確認事項】
- 自社または委託先が、クライアントから報酬を受け取った上で許認可申請書類を作成・提出していないか
- 「代行」「サポート」「アシスト」と称していても、実態が行政書士業務に該当しないか
- オンライン申請において、クライアントの電子証明書・認証情報を第三者(自社スタッフ・委託先)が使用していないか
- 業務委託契約書に、行政書士法の独占業務に関する禁止条項または資格確認条項が含まれているか
- 外注先・提携先に行政書士資格者が在籍しているか、または行政書士法人と適切な契約関係が成立しているか
デジタル化が進む行政手続において、「テクノロジーを使えば資格は不要」という発想は通用しません。行政書士法は業務の実態で判断されるため、オンライン化・自動化・AI活用のいずれの場合も、独占業務への該当性を個別に精査することが不可欠です。違反リスクを事前に排除するためには、行政書士または行政書士法人との連携体制を構築し、業務の適法性を担保する仕組みを整えておくことが、企業のコンプライアンス上の最善策といえます。
よくある質問
- Q.オンライン申請の代行なら行政書士資格は不要ですか?
- A.不要ではありません。行政書士法は申請方法(紙・オンライン)を問わず、報酬を得て他人のために官公署提出書類を作成・提出する行為を規制します。オンライン経由でも無資格代行は違法です。
- Q.「申請サポート」という名称にすれば行政書士法は適用されませんか?
- A.名称は関係ありません。業務の実態が申請書類の作成・提出代行であれば、「サポート」「アドバイザリー」と称しても行政書士法の独占業務に該当し、無資格で行えば違法となります。
- Q.無資格代行が発覚した場合、会社(法人)も処罰されますか?
- A.はい。行政書士法の両罰規定により、違反した従業員だけでなく使用者である法人にも罰金刑が科される可能性があります。企業全体のコンプライアンスリスクとして対応が必要です。