要約
行政書士法の両罰規定により、無資格代行を行った従業員だけでなく企業も罰則対象になる。法務担当者が押さえるべき違反リスクと対策を解説。
行政書士法における「両罰規定」とは何か
行政書士法は、無資格者が行政書士業務を行うことを明確に禁止している。では、実際に違反行為をした個人だけが処罰されるのか――そこで問題になるのが「両罰規定」だ。
両罰規定とは、違反行為を行った従業員・担当者などの個人だけでなく、その使用者である法人(企業)や事業主にも罰則を科す規定を指す。行政書士法にも同様の規定が設けられており、企業が無資格代行サービスを提供したり、従業員に無資格で行政書士業務を行わせた場合、企業そのものが刑事責任を問われうる。法務・コンプライアンス担当者にとって、この両罰規定は見過ごせないリスクである。
行政書士法第21条は、無資格者が業として行政書士業務を行った場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を定めている。そして同法第23条の両罰規定により、違反行為が法人の業務に関して行われた場合、その法人に対しても100万円以下の罰金刑が科される。つまり、担当者個人が摘発されれば、企業も同時に罰金を受けるリスクが生じるのだ。
どんな行為が「業として行った」と判断されるか
両罰規定が発動する前提となるのは、無資格者が「業として」行政書士業務を行ったことだ。「業として」とは、反復継続して報酬を得る意図をもって行うことを指す。一回限りの書類作成であっても、報酬を受け取る約束があれば「業として」とみなされるリスクがある。
具体的に問題になりやすい行為は次のとおりだ。①許認可申請書類(建設業許可・宅建業免許・古物商許可など)を顧客に代わって作成し報酬を得る行為。②在留資格・帰化申請書類を無資格で作成・提出代行する行為。③会社設立や農地転用申請の書類作成を有償で代行する行為。④補助金申請(事業再構築・IT導入・ものづくりなど)において「申請書類そのものの作成」を有償で代行する行為(ただし補助金コンサルは後述のとおり一部合法な範囲あり)。
一方で、以下のような行為は原則として行政書士法違反にはならない。①申請に必要な情報収集・アドバイスのみを行うコンサルティング業務(書類作成を伴わない場合)。②事業者本人が自ら申請書類を作成するための支援(書類の記載方法の説明など)。③申請書類の印刷・郵送・ファイリングなど、事務補助的な業務。
コンプライアンス担当者が注意すべきは、「書類を実質的に作成しているかどうか」という実態だ。たとえ契約書上で「コンサルティング」と表記していても、実際に書類を作成して官公署に提出代行していれば違反リスクは免れない。
両罰規定が企業コンプライアンスに与える実務上の影響
企業が両罰規定で問われる典型的なシナリオとして、次のような事例が考えられる。たとえば、補助金申請代行サービスを展開するコンサルティング会社が、行政書士資格を持たない社員を使って顧客の許認可申請書類を継続的に作成・提出していた場合、社員個人だけでなく、その会社も罰金刑の対象になりうる。
また、業務委託・アウトソーシングで外部の無資格者に書類作成を委託した場合も注意が必要だ。委託先が無資格で行政書士業務を行えば、委託先(個人または法人)に両罰規定が適用されうる。さらに、「名義貸し」の問題も深刻だ。行政書士の名前だけを使い、実際の業務を無資格者が行う「名義貸し」は、行政書士法第19条の2で禁止されており、名義を貸した行政書士本人にも処罰が及ぶ。
近年、行政手続のオンライン化が進んでいる。デジタル庁は2026年6月にも行政手続オンライン化の先行実証対象を更新しており、許認可申請のオンライン化が加速している。これにより、書類作成の敷居が下がったように見えるが、「オンラインで申請すれば誰でも代行できる」という誤解は禁物だ。書類の作成・提出を有償で代行する行為の本質は変わらないため、行政書士法違反リスクも引き続き存在する。オンライン化は手続きの利便性を高めるが、無資格代行の違法性を解消するものではない。
企業が取るべきコンプライアンス対策:チェックリスト
両罰規定のリスクを回避するために、企業の法務・コンプライアンス担当者は以下の点を確認しておきたい。
【社内業務の確認】
・自社の従業員が顧客の許認可申請書類・在留資格申請書類などを「有償で代行作成」していないか
・補助金申請代行において、書類作成まで踏み込んでいないか(コンサルティングと書類作成は区別する)
・行政書士資格を持つ担当者が業務を行っているか確認されているか
【業務委託・アウトソーシングの確認】
・外注先が行政書士資格を保有しているか確認しているか
・契約書に「行政書士業務を委託する」旨が明記されていないか(無資格者への業務委託は違法)
・委託先が実態として書類作成を行っていないか実地確認しているか
【代行サービス提供事業者の確認】
・会社設立・建設業許可・農地転用・相続手続きなどのワンストップ代行サービスを提供する場合、行政書士との適切な協業体制が構築されているか
・名義貸しに該当しないよう、資格者が実質的に業務を担当しているか
行政書士法違反による両罰規定の適用は、罰金刑にとどまらず、企業の社会的信用の毀損、取引先への影響、許認可事業者であれば行政処分につながるリスクもある。「知らなかった」では済まされないため、今一度、自社・委託先の業務実態を点検することが急務だ。コンプライアンス体制の見直しに際しては、行政書士や弁護士など専門家への相談を早期に行うことを強く推奨する。
よくある質問
- Q.行政書士法の両罰規定とは何ですか?
- A.無資格者が行政書士業務を行った場合、違反した個人だけでなく、その使用者である法人(企業)にも罰金刑(100万円以下)を科す規定です。
- Q.補助金申請の代行をすると両罰規定が適用されますか?
- A.補助金申請書類そのものを有償で作成・代行した場合は違反リスクがあります。情報提供・アドバイスのみのコンサルティングであれば原則として問題ありません。
- Q.業務委託先が無資格代行をしていた場合、委託元企業も罰則を受けますか?
- A.委託先(法人・個人)が両罰規定の対象になります。委託元企業も管理責任が問われうるため、委託先の資格保有状況の確認が不可欠です。